日本公認会計士協会で講演してきました。

2007年12月12日

12月11日、公認会計士の矢田慶來先生のお招きにより、日本公認会計士協会主催の研修会で講師を務めてきました。

テーマは「昨今の労働環境を背景とした労務リスク管理と就業規則の必要性」。

サービス残業、偽装請負・偽装出向、セクハラ・パワハラ、メンタルヘルスなど、最近新聞紙上を賑わす労働問題について、個別労働紛争の増加の要因を含め、その内実と背景をお話しました。

折りしも、採用から退職に至るまでの雇用のルールを法制化した新法「労働契約法」の成立時期と重なったため、その成立に至るまでの裏話を交えながら、実定法が少なく判例法理に頼らざるを得ない労働問題の実情についてお伝えしました。

また、労働問題の多くは事業主に立証責任が課せられているのでエビデンスの存在が重要であり、それを集約したものが「就業規則」であることを力説したところ、「目からウロコ」との評を頂戴し、スピーカー冥利に尽きる思いがしました。

セミナーの講師をやっていて、いつもつくづく思うことは、報酬的ベネフィットはあまり多くは期待できないものの、たくさんの魅力的な人たちと出会うことができるということです。これまでも講師業を通じて、普段はお目にかかれない、ましてやお話しする機会を得られないような人たちと交流の場を持つことができました。

今回も多くの公認会計士の方々と面識を持つこととなり、IPO、会社分割、M&Aにおいて労務デュー・デリジェンスを模索している私にとっては願ってもない出会いとなりました。

私一人の力は微力であっても、多くのそして高度なバックボーンを持つことは、クライアントに対する付加価値として大きな力となるものと確信しています。


特定社会保険労務士  佐藤 広一
さとう社会保険労務士事務所
http://www.officesato.jp/

「管理監督者」には残業手当はいらない!?

2007年12月7日

厚生労働省は、平成18年度の賃金不払い残業、いわゆる「サービス残業」の調査結果を発表しました。

この調査結果によると、各地の労働基準監督署からサービス残業の是正を指導され、100万円以上の残業代を支払った企業は1679社にも上り、調査を始めた平成13年度以降で最高を記録したとのこと。

その支払総額は、なんと227億1485万円。

サービス残業問題は2年ほど前に世の中を席巻して大問題となりました。
この1年間は「偽装請負」に話題をさらわれた格好でしたが、ここへきてまた再燃の兆しです。

その象徴的なのは「紳士服のコナカ」。

コナカは、今年6月に横浜西労働基準監督署から「仕事上の裁量権などを十分に与えられていない」として約330人の店長全員について管理監督者としての地位を外すよう是正指導を受け、過去の労働実態を勘案し特別賞与として約4億7000万円を支払うことを余儀なくされています。

このいわゆる「管理監督者」に対しては残業手当が支払われないという根拠は、労働基準法第41条第2号に起因します。ここでは、管理監督者には、労働時間、休憩および休日に関する規定が適用されないと規定され、そもそも時間外労働や休日労働などという概念が生じないことになります。

厚生労働省は管理監督者の範囲について、「管理監督者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである」という判断基準を通達しています。

しかしながら、この行政通達も「〜が(管理監督者として)ふさわしいか?」という表現で、極めて曖昧です。
この曖昧さに起因して、前述のコナカのような事態が生じるわけですから、いっそのこと、管理監督者とは「年収○○万円以上の者、かつ、常時経営会議に参加している者」などと具体的に例示すれば、こうした問題はかなり解消されるように思います。

この「管理監督者」の判断をめぐっては、ハンバーガーチェーン最大手の日本マクドナルド社に対し、未払い残業手当の支払いを求める裁判が東京地方裁判所で現在進んでいます。会社を訴えた原告は、現役直営店の店長。
仮に店長職に就く者全員に残業手当を認めるとなると、その額はなんと100億円から200億円にも及ぶとのこと。

まさにマクドナルドにとっては屋台骨を揺るがしかねない大問題ですが、裁判は年内にも結審する予定でその司法判断が注目されます。


特定社会保険労務士  佐藤 広一
さとう社会保険労務士事務所
http://www.officesato.jp/

ついに「労働契約法」可決!

2007年11月13日

 11月2日の衆議院厚生労働委員会において、労働3法案のうち、労働契約法案及び最低賃金法改正法案については、それぞれ、法案の内容を一部修正し、11月8日の衆議院本会議で可決、参議院へ送られました。

 これにより、2法案の審議は参議院へ舞台を移すこととなりましたが、「労働基準法の一部を改正する法律案」については、継続審議とするか廃案とするか会期末までに決まる見込みとなっています。

 特に労働契約法の制定は、雇用のルールが法制化されることで労使ともに大きな影響が生じることになります。とりわけ、労働契約と就業規則の関係においては注意が必要です。

 労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合、労働契約はそれによることが明定化されました。

 また、就業規則の変更についても、それが合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則の定めによることとされています。

 したがって、これらを具備し合理的であると判断されれば、変更後の就業規則に定められた労働条件がそのまま、包括的に労働契約上の労働条件となり得ることになります。

 合理的とみなされるためには、いくつものハードルがあり不利益変更は許されない、というのが基本的なスタンスですが、「就業規則の内容=労働条件」という構図が成り立って、労働者個人が異を唱えても労働条件が不利益に変更される恐れはないとはいえないでしょう。


特定社会保険労務士  佐藤 広一
さとう社会保険労務士事務所
http://www.officesato.jp/

労務コラム「偽装請負」ってなんだ!?(その2)

2007年10月30日

 労働者派遣として派遣労働者を受け入れる際には、その期間について制限があり、業務の種類によって異なります。

 ソフトウェアの開発など政令で定められている26業務、などについては制限がありませんが、一般的業務は、原則として1年が上限ですが、派遣先に元々雇用されている正規労働者の過半数代表の意見聴取を行なえば、最長3年まで受け入れることが可能です。

 とりわけ、物の製造業については、平成19年3月からそれまでの1年間から3年間へと制限が延長されています。

 平成16年の労働者派遣法改正では、これらの派遣受入期間の制限規定に加え、受入期間が満了した後も引き続き仕事に従事してもらいたい場合には、派遣労働者に対して雇用契約の申込みを行うことが義務づけられました。

 厚生労働省は、偽装請負が判明した場合、これまでの労働者派遣契約への切り替えを認めていましたが、この改正点との整合性を確保するため、「偽装請負で働いた期間が派遣で認められる期間を超える場合は早期の直接雇用を指導する」という方針に転換しました。

 これにより、例えば製造業では3年を超えて仕事に従事していた場合には、労働者派遣を飛び越えて直接雇用する義務が生じることになったわけです。

 連合や野党の思惑に大手新聞社が抜群のアナウンスメント効果を発揮して「偽装請負」摘発キャンペーンが突如世の中を席巻し、受入側の企業にとってはまさに「寝耳に水」。要因計画の見直しと多額の労務コストの支出を余儀なくされたことには、受入会社に対して同情する余地はあるようにも感じます。

 「法律を遵守するのは当然だが、法律にも勧告にも無理がありすぎる。派遣法を見直してもらいたい。」とは、経済財政諮問会議での御手洗キヤノン社長の発言ですが、日本経団連の会長として産業界を代弁したものといえるでしょう。

 ところが、こうした偽装請負の解消へのトレンドは、本年4月26日に下った司法判断によってまたも迷走し始めます。

 偽装請負問題の発端となった松下電器の子会社の請負社員が直接雇用を求めた訴訟で、この地裁判決では、偽装であったことは認めたものの、偽装請負を告発した労働者の直接雇用については、「会社側に義務は発生しているが実際に雇用したい旨の申し込みがなければ雇用契約は成立しない」という判断でした。

 原告は控訴しましたから上級審の見解に注目しなければなりませんが、「労働者派遣」と「請負」を明確に区分する企業としての姿勢は、今後も問われ続けることになるでしょう。


特定社会保険労務士 佐藤広一(さとう ひろかず)
さとう社会保険労務士事務所   
http://www.officesato.jp/

注)本コラムの無断転載、無断引用、再配信等は一切お断りします。

労務コラム 「偽装請負」ってなんだ!?(その1)

2007年10月24日

 昨今は、特に大手家電メーカーにおいて「偽装請負」なるものが取り沙汰されています。今回は、理解しているようでそうでもない「偽装請負」について触れてみます。

偽装請負とは、製造業や情報サービス業などの企業が、「請負」の形式をとりながらも実態として労働者派遣を行い、労働者として雇用した場合に発生する労働者派遣法や労働基準法などに規定される企業責任を逃れようとする行為をいいます。

雇用契約でなく請負であれば、残業時間の制限、割増賃金の支払い、年次有給休暇の付与、解雇制限、最低賃金、社会保険料の加入など煩わしい労働関係法規の適用がなくなり、企業にとっては人件費と雇用量のコントロールが容易となるため、この「請負」という手段を用いて労働力を確保しようとする動きは起こりえます。

また、意図的ではなくともソフトウェア業界のように、「業界の慣習」として常習的に行われているケースも散見され、結果として「偽装請負」となってしまうこともあります。とりわけ、中小企業を主とする下請会社は、元請会社が「請負」として受注している以上、自社だけが異端的に「派遣」として処理するわけにはいかない、というジレンマもあります。

 「労働者派遣」とは、人材派遣会社(派遣元)が自己の雇用する労働者を、受入会社(派遣先)の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることをいいます。一方の「請負」とは、仕事の完成を目的とするもので、その業務の具体的な遂行方法等は受託者(派遣元)が考えることで、発注者(派遣先)が労務管理や作業指示等を行うことはできないことになっています。すなわち、自社と雇用関係のない労働者に対して指揮命令ができるのは、「労働者派遣」による場合のみとなるわけです。

両者の区分については、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)で厚生労働省により通達されていますが、現場サイドで最近の労働局による調査内容を踏まえてみると、その仕事が請負ではない(労働者派遣である)と判断するポイントは、@仕事の進め方について会社の指示命令がある、A報酬が出来高制ではなく、時間に応じた労働の対償となっている、B仕事に必要な器具、工具などを会社が提供している、という点です。他にも多数の判断項目が掲げられていますが、主にこの3点に集約されているといっても過言ではないでしょう。

特定社会保険労務士 佐藤広一(さとう ひろかず)
さとう社会保険労務士事務所   
http://www.officesato.jp/

注)本コラムの無断転載、無断引用、再配信等は一切お断りします。